自社製品紹介

超高周波透磁率測定装置”PMM-9G1”について




 凌和電子株式会社(宮城県仙台市 代表取締役社長安藤正如)は、磁性材料の物理基礎定数としての複素透磁率注1)を、最大9GHz注2)まで絶対測定できる装置の製品化に世界で初めて成功し、本日より発売することとしました。


1.製品化の背景と狙い

最近のブロードバンド・インターネットの拡大、10Gビット光通信技術の普及など急速なIT注3)技術の進展に伴い、基本周波数が5GHz以上の信号を扱う機器が爆発的に拡大する傾向にあります。それに呼応して、高周波磁気材料の開発に関しても、10GHz程度まで優れた特性を持つ軟磁性薄膜への要求が非常に高くなってきています。例えば、磁気記録ヘッドや薄膜インダクタのように、小さな磁界で大きな磁化変化を示し、かつ低損失の磁気材料の要求、あるいは電磁環境問題対策に必要な電波吸収材料では、透磁率虚数部の値が大きい磁気材料の要求です。そして本製品は、皆様の要望に応えるべく、開発に不可欠な複素透磁率の絶対値を、広帯域で、正確に、かつ容易に測定できる測定装置として完成しました。


2.製品の特長

本日発売する“PMM-9G1”は、当社で販売中のPMF-3000に比べて測定可能最大周波数を3倍の9GHzまで拡張したばかりで無く、1MHzから9GHzまでを一度に絶対値として複素透磁率測定ができる世界最高の広帯域性が最大の特長です。ユーザの皆さまから頂いた要望を含め、その他にも透磁率を測定する上で種々のグレードアップを施しました。以下に装置の特長を列記します。

    ・1MHz~9GHzまで連続した測定が可能

    ・誘電率注4)(ε)に関係なく、複素透磁率「μ」のみを測定可能

    ・高周波電界の影響による測定誤差を抑圧

    ・信号対雑音比の大幅改善(ハードで18dB以上、ソフトで12dB以上)

    ・最大飽和磁界注5)を2kOeまで強化し、異方性磁界注6)の大きな試料にも対応可能

    ・水冷雰囲気による測定時の試料温度の安定性

    ・測定手順を変更可能とし、磁気飽和効果の影響調査にも対応

    ・測定取得データの強化とその選択の拡大


3.技術開発内容のポイント

当社は1昨年来、3GHzまで測定出来るPMF-3000を発売してきました。それを9GHzの帯域まで伸ばすことに当っては多くの難問があり、種々の新規開発が必要でした。そのポイントの要点は、

    ・9GHzを超える周波数特性を持ち、電界誤差信号を拾わない真の磁気センサーとしての特性を持つシールディドループコイル注7)の電気モデル化と製造開発に成功

    ・超高周波まで周波数依存性が少ない高周波磁界発生器として、インピーダンス整合した側面開放型TEMセル注8)空洞を開発

    ・試料に印加する高周波モードは、周波数制限が生じない進行波に変更

    ・高周波電界信号による誤差要因をキャンセルできる側面開放型TEMセル空洞内への磁気センサー組み込み位置の探索

    ・高周波フィクスチャ注9)の校正注10)用治具の高精度化と、校正手順の検討

    ・全Sパラメーター注11)測定に基づく透磁率算出式と簡易式の妥当性検討

    ・測定雑音は、ハード、ソフト両面から改善して、1桁以上低下

    ・水冷型ソレノイドコイル注12)採用で最大飽和磁界を従来の2倍2kOeまで増強すると同時に、水冷雰囲気環境で測定されるために試料の温度変化を抑制

です。以上示した新技術の開発とシステム化技術によって、世界最高の周波数特性と最高性能の透磁率測定装置の実現に至りました。 本製品の技術開発に係わる内容については、共同研究を行っている東北大学電気通信研究所 山口正洋助教授[荒井研究室]と共著で発表を行っています。プロトタイプの開発に関しては、2002年2月電気学会研究会MAG-02-9、pp.1-6に発表したほか、本製品の技術開発の詳細については、9月19日午後に第26回日本応用磁気学会で発表し、併設される展示会に出展致します。その他開発した基本技術に関しては、順次学会や論文で公表する予定です。なお、本開発に係わる新規特許は2件出願済みです。 また、今回の開発経費の一部は、経済産業省の平成13年度創造技術研究開発事業(研究開発テーマ:超高周波透磁率測定装置の開発)のご支援を受けております。この製品発表により磁気材料開発者、また研究機関、企業の皆様へ貢献出来るものと考えております。


4.販売戦略

 本製品の販売ターゲットとしては、磁気記録ヘッド材料、薄膜インダクタ材料、あるいは電波吸収材料の開発をしている大学、研究所、工業試験所、大手企業様を対象に販売する計画を立てております。

1〕販売価格 :¥29,800,000/標準機システム一式
2〕発売日 :平成14年9月5日
3〕出荷日 :平成14年11月1日より
4〕販売形式 :システム販売
5〕販売ルート :凌和電子㈱直販もしくは代理店販売(数社)
6〕販売計画 :h14、下期 1~2台 
7〕宣伝方法 :h15、通期 5台   (国内)
:h16、通期 5台   (国内)
    通期 3台   (海外)米国、独国、仏国
8〕販売受付窓口 :凌和電子㈱営業部
 本社 :宮城県仙台市若林区南材木町48番地
 tel :022-266-4188 fax:022-268-1906
 担当 :川田
 山形 :山形県山形市高原町1483番1号
 tel :023-642-1776 fax:023-642-1782
 担当 :新海


【用語解説】

注1) 複素透磁率
磁束密度Bを磁界強度Hで割った時の係数を透磁率と呼びμと表示される。交流磁界に対しては一般に複素数となるので複素透磁率と呼ばれる。また、真空の透磁率μ0との比を比透磁率と言う。因みに非磁性体の比透磁率は1である。


注2) 9GHz
1秒回に90億サイクルの振動があること。


注3) IT
Information Technology


注4) 誘電率
電束密度Dを電界強度Eで割った時の係数を誘電率と呼びεと表示。


注5) 飽和磁界
外部磁界による磁性体の磁化が最大値に達し、磁界をそれ以上大きくしても変化しないように成った状態を磁気飽和と呼び、それを実現する磁界の強さ。


注6) 異方性磁界
強磁性体の内部で自発磁化がとる方向によって内部エネルギーが変化する現象を磁気異方性と呼び、そのエネルギーに相当する等価磁界の強さ。


注7) シールディドループコイル
シールディドループアンテナとも言われ、その基本構造は半ターンの同軸線路のループと同一サイズの半ターンの導体を結合して1回巻きのループ形状としたコイル。同軸線路の終端に整合抵抗を接続した時、抵抗の両端には磁界強度に比例した電圧が検出できるため磁気センサーとして働く。1996年、プリント基板製作技術を使って、MHz帯から数GHz帯に亙って感度を持ち、加工が容易で、かつ、精度良く出来る構造のものが東北大通研の山口助教授らによって発明され、実用に供されるようになった。


注8) 側面開放型temセル
特性インピーダンスが50Ωの大型の角形同軸線路で、その内部に供試機器を置き試験をする目的の、高周波モードの一種のTEM波が伝搬する機器をTEMセルと呼ぶ。実用的には最大1GHzが限界であり、密閉構造であるのに対し、側面を開放型に変えて、TEM波の強度と磁界方向の空間的均一性を更に改善すると同時に、最大使用可能周波数も10GHz以上に延ばした新規開発した高周波空洞。形状の類似性から名称はTEMセルを使ったが、物理的には高周波線路として広く使われているストリップ線路構造である。


注9) 高周波フィクスチャ
材料やデバイスの高周波特性を測定する時に、測定対象物を内部に固定して高周波電磁界を印加すると同時に、その応答信号を出力できる高周波用治具。測定したい周波数全範囲に亙って、周波数依存性がない伝搬特性を持つものが望ましい。


注10)高周波フィクスチャの校正
測定したい周波数範囲に亙って周波数依存性がない理想的な伝搬特性を持つ高周波フィクスチャは現実に存在しないので、予めその周波数特性を測定して最終的な測定対象物の結果からフィクスチャの影響を取り除く処理を行うが、その補正係数を決定する操作。


注11)sパラメーター
散乱係数とも言われ、入力した電圧振幅に対し、反射したり、通過したりする電圧振幅の割合を表す係数。材料やデバイスの周波数特性は、電磁波の入力に対する散乱と見なせるので、Sパラメターを測定することによって対象物の電磁特性を求めることが出来る。


注12)ソレノイドコイル
長い円筒状のコイル。円形電流が並んで管状になったもので、コイル内中心付近では、場所によらず、電流に比例した軸方向の一定強度の磁界が発生できることが特徴。



参考1.仕様概要

測定周波数範囲 1MHz~9GHz
試料寸法(最大) 幅4.4mm(容易軸方向)×厚さ0.8mm
長さ4mm以上推奨(困難軸方向)
試料測定温度 室温(水冷雰囲気による温度安定化)
測定点数 周波数に対して最大1,000点(1バイアス)
データ・セット数 バイアス磁界に対して最大5セットまで
外部バイアス磁界強度 0~2koe(水冷型ソレノイドコイル使用)
励磁電力設定範囲 -20dBm~+15 dBm(+5dBm以上推奨)
全帯域rf励磁電力安定性 ±2.0db以下
測定手順選択 飽和測定優先/任意バイアス優先
雑音低減処理 *  積算平均、ディジタル・フィルター
表示項目 μ、μ’、μ”
ファイル保存 マテリアルパラメータ、μ、μ’、μ”、周波数

 測定雑音レベル低下は、3GHz以下の周波数領域で、現在販売中のPMF-3000に比し、ハードで18dB、ソフトで12dB以上の向上(積算平均とディジタル・フィルター処理のユーザ設定に依存)



参考2.pmf-3000との仕様比較

項目\機種

PMM-9G1 PMF-3000
測定周波数範囲 1MHz~9GHz 1MHz~3GHz
試料寸法(最大) 幅4.4mm(容易軸方向)×厚さ0.8mm
長さ4mm以上推奨(困難軸方向)
幅6mm×厚さ1.1mm
長さ5mm以上推奨
試料測定温度 室温
(水冷雰囲気による温度安定化)
コイル発熱に依存して変動
測定点数
(1バイアス)
最大1,000点(周波数に対して) 最大500点
データ取得可能
セット数
最大5セットまで
(バイアス磁界に対して)
同左
外部バイアス
磁界強度
0~2kOe
(水冷型ソレノイドコイル使用)
0~1kOe
(自然空冷コイル)
励磁電力
設定範囲
-20dBm~+15 dBm
(+5dBm以上推奨)
-20dBm~+10 dBm
(+5dBm以上推奨)
全帯域rf励磁電力安定性 ±2.0dB以下 規定せず
測定手順選択 飽和測定優先/任意バイアス優先 飽和測定優先のみ
雑音低減処理 積算平均、ディジタル・フィルター 積算平均のみ
表示項目 μ、μ’、μ” 同左
ファイル保存 材料パラメータ、μ、μ’、μ”、
周波数、(sパラメータ)
同左


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